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大麻、マリファナと医療大麻 Medicinal cannabisへの注意喚起
2025-03-17
#オーストラリアの医療情報 #ブログ

オーストラリアでは、大麻・マリファナ(cannabis)は違法薬物となっています。しかしながら、こちらでは入手は比較的簡単なようで、近年は、日本人のワーホリさんや留学生さんが取り締まりに合うケースも多くなっています。
大麻が違法薬物に指定されているのは、大麻が人体にとって有害だからに他なりません。大麻の使用により幻覚作用や記憶への影響、学習能力の低下等が引き起こされます。さらに、使用を続けることにより、精神依存(不安感、大麻に対する渇望等)の形成や、統合失調症やうつ病発症リスクの増加、IQ(知能指数)の低下などが引き起こされます。本当に、よいことは何もないので決して手を出さないでいただきたいです。
医療大麻については、オーストラリアでは2016年より医師による処方が合法化されています。それ以来、大麻ビジネスの一環として、不適切な医療大麻の処方が急激に増加しています。最近では、大麻クリニックが大麻処方を宣伝するなどの違法行為で罰金刑を受けるケースが増えており、大きな問題となっています。[*1,*2]
そういったクリニックでは、大麻はうつや不眠、不安障害などに有効だと主張していますが、実際のところ、現在の段階では十分な医学的エビデンスはありません。オーストラリアの精神科医学会でも、総合診療医学会でも、メンタルヘルス疾患をもつ患者さんへの医療大麻の処方は控えるべきだとの見解を発表しています。[ *3 *4] 国際的な視点から見ても、医師の多くは、他に選択肢のない末期がんの緩和ケアや難治性てんかん以外での大麻処方には未だに懐疑的です。
オーストラリアのクリニックの中には、海外旅行保険を不適切に利用して日本人旅行者に大麻を提供しているところもありますが、不正が疑われるケースについては保険会社からの厳しい審査が入るそうです。そういったやり方は、たとえ法的に可能であっても、医療倫理的には問題があると思います。
患者さんにとって、メンタルヘルス系の相談でクリニックを受診するのはとても勇気がいることです。そうやって悩みぬいてやっと話をしに来てくれた心の弱った患者さんに付け込んで、依存性の高い医療大麻を処方するのは極めて不適切だと感じます。オーストラリアでは近年、不適切な大麻処方の影響下で、メンタルヘルス疾患の症状がさらに悪化したり、精神病を発症するといった症例の著しい増加が懸念されています。警察沙汰になったり、精神病棟へ隔離されたり、最悪命を絶ってしまうというケースもあるようです。 [*5,*6] 世界各地における研究でも、大麻使用による死亡率の増加が明らかになってきています。[*7]
オーストラリアに滞在している日本人の皆さんには、気軽に手に入るからこそ、大麻にはたくさんの危険性があることをぜひ知っていただきたいと思います。もし周りの人に大麻などの薬物を勧められても、断る勇気を持ってください。医療大麻を服用して症状が悪化している場合には、他の信頼できるクリニックでのセカンドオピニオンを受けることをお勧めいたします。
*1 https://www1.racgp.org.au/newsgp/clinical/extent-of-non-compliant-medicinal-cannabis-clinics
*5 https://amp.abc.net.au/article/104116952
*6 https://amp.abc.net.au/article/104449400
*7 https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2829914

Dr Mayumi Yoshida
吉田まゆみ医師 🇦🇺 🇯🇵 🇺🇸 🇬🇧
MBBS, BMedSci, MRCGP, DFSRH (UK), FRACGP (Australia), ECFMG(USA)
福岡県福岡市出身。16才の時に渡英。2003 年に英国ノッティンガム大学医学部を卒業、イギリスの医師免許を取得。2007年にアメリカの医師免許資格(ECFMG Certificate)を取得。2014年に英国オックスフォードで総合診療医/GP課程を修了、イギリスとオーストラリア両国のGP資格を保持する。2024年に日本の医師国家試験に合格し、現在イギリス、アメリカ、オーストラリア、日本の4か国における医師国家資格を有する。